装飾 背景

テクノロジーで『自分らしい生き方』を支えるPHRの未来とその実現に向けた社会実装への挑戦


2026.04.03

富士通Japan株式会社 ヘルスケア事業本部 デジタルヘルスケア事業部 和田 叔子

医療の主役を、個人へ。富士通 PHR事業の現在地

――富士通がどのような視点でヘルスケア事業に取り組んでいるのか、和田さんの所属部署の役割と共にお聞かせください。

富士通は、企業パーパス『イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと』を掲げ、テクノロジーによる社会課題解決に挑んでいます。私たちが所属するヘルスケア領域は、二千人規模の大所帯ですが、長年電子カルテベンダーとして医療機関向けに様々なシステムを提供してきました。
最近では、単に病院内のデータを管理するだけでなく、個人の健康情報である「PHR(Personal Health Record)」を通じて、本人の了承のもとで個人の健康情報を統合し、安心と信頼のもとで利活用できる環境の構築に注力しています。また、私たち自身も「健康経営」を推進しており、ハイブリッドワークの推奨やサテライトオフィスの活用など、社員が自律的に働き方と健康を管理できる環境を整えています。

――PHR事業に本格的に乗り出したのはいつ頃からでしょうか。

和田:PHRという言葉を前面に出して事業化を加速させたのは、ここ数年のことです。もともと医療機関向けの業務システムや、製薬企業向けのライフサイエンス領域では強い基盤を持っていましたが、これからは一機関、一企業で完結するのではなく、業界を横断してデータを繋ぐ「クロスインダストリー」の視点が不可欠です。その中心には必ず「個人」が存在します。患者さんや生活者一人ひとりを起点としたデータ活用を目指し、「Healthy Living Platform」の展開を始めました。

――多くの企業がPHRに参入していますが、富士通ならではの強みはどこにあるとお考えですか。

和田:最大の強みは、やはり長年の電子カルテ事業で培った深い医療知見と技術力に基づき、『医療機関が保持する診療データ』と『個人の主体的な健康情報であるPHR』を、国際水準のセキュリティレベルで安全かつセキュアに連携させるノウハウを有している点にあります。
医療機関のデータは、医師という専門家がエビデンスとして認めた信頼性の高いものです。一方で、個人がアプリなどで入力するPHRは、どうしても主観的なものになりがちです。この「客観的なエビデンス」と「主観的なライフログ」が組み合わさることで、初めてデータの真価が発揮されると考えています。

PHRサービス事業協会で目指す「社会実装」のための標準化とガイドライン策定

――富士通がPHRサービス事業協会で実現したいことは?

和田:PHRがあることで、患者さんは自分の状態を正確に伝えられ、医師はそれを見て的確なアドバイスができるようになります。単なる記録ではなく、医師と患者の「コミュニケーションツール」として機能するのが理想です。
ただし、医療現場は非常に多忙です。PHRデータをそのまま送信するだけでは負担になるだけです。医師が診察の瞬間に見るべき情報を効率的に、かつ素早く認識できる形で提示するインターフェースの工夫を凝らしています。ここは、現場を知る富士通ならではの知見が活きているポイントです。
かつて電子カルテ業界は「ベンダー色」が強く、各社独自の規格でデータが閉じられていたという反省があります。しかし、データの利活用が叫ばれる今、それでは社会が回りません。
現在は「FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)」という医療データ活用のデファクトスタンダードである次世代の国際標準規格を採用し、医療機関の枠を超え、システム間で安全かつ円滑なデータ連携、統合が実現できる社会を目指しています。富士通も一ベンダーの都合ではなく、この国際基準に準拠したサービス作りを進めています。

――標準化を進めるために、業界団体とも連携されているのですね。

和田: はい。ガイドライン作りなどは一社では不可能です。私たちが参加している団体(PHRサービス事業協会など)には、競合他社も含めた様々な企業や立場の方が集まります。そこで喧々諤々の議論をしながら、実装可能な共通仕様を固めていく。机上の空論ではなく、実際にサービスを運用する企業が連携し、現場からのフィードバックを迅速に反映させる『共創と実践のサイクル』を回すことが、社会実装を加速させる上で極めて重要だと考えます。
最近では、患者さん自身が入力する「PGHD(患者由来健康データ)」の標準化において、富士通もワーキンググループに参画し、ガイドライン策定をリードする立場となって尽力しました。グローバル企業から機器メーカーまで、それぞれ異なる規格を持つプレイヤーをまとめ上げ、日本としての標準を形にするプロセスは非常に困難を極めましたが、これこそが「繋がる社会」への第一歩だと確信しています。

――PHRデータが蓄積されていくと、将来的にどのような可能性が広がりますか。

和田: 究極的には「病気にならない」未病・予防の領域です。今の医学研究は「発症後」のデータは豊富ですが、「発症前」の生活習慣や行動データが圧倒的に不足しています。例えば、10代、20代の頃にどのような生活をしていたかというライフログと、その後の健康状態や疾患発症との関連を解明できれば、これは医学・社会にとって計り知れない価値を生む『宝の山』となる可能性を秘めています。多くの研究者の方がこの領域に期待を寄せており、私たちも内閣府のBRIDGE(研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム)やAMED(日本医療研究開発機構)などの実証事業を通じて、新たな医学的発見に貢献しようとしています。

――医療の未来だけでなく、日常生活や緊急時の安心にも繋がるのでしょうか。

和田: そうですね。例えば災害などの有事においても、PHRは極めて重要な役割を果たします。病院のシステムが機能停止した場合でも、個人のスマートフォン等で自身の医療情報(既往歴、処方薬、アレルギー情報など)を提示できれば、避難先や移動先でも、途切れることなく適切な治療を受ける助けとなります。かつての震災でも「お薬手帳が命を救った」という話がありましたが、それをデジタルでより詳細かつ確実に持ち歩けるようにするのが私たちの役割です。
また、グローバルな視点も欠かせません。長期滞在の訪日外国人の方が日本で受診した際、その情報を自国に持ち帰って治療を継続できるような、国際標準規格FHIRに基づいた「情報移動」が当たり前になる社会を目指しています。

個自分のデータを「未来へのエビデンス」に。PHRが支える主体的な健康管理

――個人のデータを扱う以上、「情報の提供」に抵抗を感じる方もいるのではないでしょうか。

和田: はい、その通りです。個人のデータを扱う上で、最も重要な課題は『信頼性の担保』と『本人の納得感ある同意形成』です。PHRは、個人の大切な健康情報であるからこそ、『本人の同意』が大前提となります。私たちは、自分のデータを提供することで、自分自身がより良い治療を受けられるというメリットはもちろんですが、もう一つのモチベーションとして「社会への貢献感」があると考えています。
「自身の健康データが、同じ課題に直面する方々や、未来を担う子供たちのための新しい治療法に繋がる」。そうした貢献の仕組みを透明性高く提供することで、納得感を持ってデータ活用に参加していただける環境を作りたいと考えています。

――「納得感」という言葉が非常に印象的です。

和田: これからの医療は、お医者さんにお任せするだけではなく、自分自身が主体的に健康を考え、医師はその「伴走者(パートナー)」になるという対等な関係にシフトしていくはずです。PHRによって自分の体の状態を正しく理解し、医師と対話を重ねて治療方針を決める。この「納得感のある医療」こそが、これからのスタンダードになると信じています。

――最後に、和田さんご自身がこの事業を通じて実現したい夢を教えてください。

和田: 私の個人的な夢は、病気であってもなくても、その人が「その人らしく」毎日を楽しく過ごせる社会を作ることです。
納得して治療を受けるのと、言われるがままに受けるのとでは、たぶん、効果も違ってくると思っています。そして、病気と向き合いながらも、旅行に行ったり、趣味を楽しんだりすることを諦めなくていい。データの力が不安を安心に変え、諦めていたことへの背中をそっと押すことができる。テクノロジーが過剰に主張するのではなく、黒子として人々の生活を支え、誰もが自分らしい人生を謳歌できる――そんな未来を、PHRサービス事業協会の皆さんと一緒に実現していきたいと思います。

ーお忙しい中、ありがとうございました。

富士通Japan株式会社
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富士通グループが掲げる「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を国内市場において具現化する中核会社。

和田 叔子
ヘルスケア事業本部
Digital Health Platform推進室(Healthy Living)
健康のために心がけていること:どんなに忙しくても、健康基盤となる『よく食べ、よく眠る』ことを大切にしている。自身の食生活はそれほど偏りがないと思っているが、周囲からは好き嫌いが多い(?)と言われることも。

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